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FX

今後のドル円の行方「ブルームバーグとロイターの記事から考察」

榊原元財務官

榊原元財務官
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

「トランプフィーバー」は終わる-。榊原英資元財務官は、ドナルド・トランプ米大統領が約束した景気刺激策の効果は高過ぎる期待に届かず、政権のドル安志向や米欧政治の不透明感を背景に、円高・ドル安基調が再び強まるとみている。

 

ミスター円の異名を取る榊原氏(75)は23日のインタビューで、「米国内の雇用を重視するトランプ政権の立場から言えば輸出促進が重要になってくるし、輸出を促すにはドル安の方が好都合だ」と指摘。それでも新政権が目指す年4%の経済成長は「とても無理」で、2-2.5%に落ち着くと予想している。利上げも年内「せいぜい2回程度」にとどまり、米国債利回りの上昇も限られることがドル安要因になると言う。

 

トランプフィーバーをめぐっての円の対ドル相場は、米大統領選直後の高値101円台から昨年12月半ばに118円66銭と約10カ月半ぶりの水準に下げた。だが、今年に入ってからの相場は徐々に円高基調を強めている。今週24日には112円53銭まで反発した。東京時間25日は113円99銭まで円が売られる場面があったものの、終盤にかけては113円台半ばと底堅く推移している。

 

榊原氏は、9月下旬にはトランプ氏勝利の確率が「50%近くある」と述べ、当選を受けた11月のインタビューではトランプ政権は「恐らくドル安政策だ」との見方を示していた。円相場の見通しについて、榊原氏は「すでに1ドル=110円を目指す展開になっている。105-110円のレンジへ移り、105円、100円の方向に行く」と読む。

 

「やや極端かもしれないが、今年末から来年にかけて100円を切ることがあり得る」と予想。足元の円高がトランプ政権の減税やインフラ投資、米企業の国内回帰などを織り込んだドル高局面の調整にすぎないという市場予想とは対照的に、緩やかな円高・ドル安基調を見込んでいる。

 

トランプ大統領は就任演説で「アメリカファースト」(米国第一主義)を掲げ、「米国製品を買い、米国人を雇う」のがルールだと言明した。今週は自由貿易を推進する環太平洋連携協定(TPP)から離脱するための大統領令に署名。メキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に向けても作業中だ。実業界首脳に対しては、雇用を米国外に移転する企業には「極めて大型」の国境税を課すと警告した。

 

榊原氏は、トランプ氏の保護主義的な発言を受けてドル相場が下げる中で次期米財務長官のスティーブン・ムニューチン氏が「強いドル」政策に言及したのは「新政権は短期的には輸出や雇用に有利なドル安志向だが、あまりにもドル安になり過ぎるのは困るということだ」と分析。「ルービン氏以来の『強いドルは国益』という基本方針はそれほど変わっていないと補足的に言及した」にすぎないと解釈している。

 

トランプ氏は先週、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、強いドルが米企業の競争力に「致命的」になっていると指摘した。ムニューチン氏は直後に米議会公聴会で、強いドルは長期的に重要だが、現時点で「とても、とても強い」と発言。米上院議員への書簡では「過度に強いドル」が米経済に短期的にマイナスの影響を与える恐れがあるとの見解を示した。

 

榊原氏は、「クリントン政権の発足時は異常な状況で、みなアーカンソー州から来た田舎者の政権だった」と振り返る。一方、トランプ政権では「市場をよく知る人材が最初から枢要なポストを占めており、米ゴールドマン・サックス・グループの幹部と軍人の政権だ」と指摘。「経済政策が大きく乱高下することはないだろう。保護貿易的な動きはあっても、米国自身への悪影響を考慮し、それほど極端なことはやらない」とみる。

為替政策に関しては、オバマ政権からトランプ政権になっても為替介入は難しく、可能となるのは「85円-95円の間」で変わらないというのが榊原氏の見方だ。「介入は対ドルなら米国の合意が必要だ。無理矢理やっても効果がない。米国が過度のドル安を受け、日本とある種の危機感を共有しないとできない」と説明。「90円を上回る可能性が出てきた時」がそのタイミングだと読む。

 

自身は1995年から「かなり介入したが、当時は日本が円高に、米国はドル安に危機感を抱いていた」と振り返った。榊原氏は、安倍晋三首相とトランプ大統領の相性について、「個人的な関係ができており、二人ともやや右寄りなので方向性が合う」と分析。米国第一主義のトランプ大統領に対し、「首相も『ジャパンファースト』を訴えれば良い。国内の経済成長を重視するので過度な円高は困ると言えるだろう。どの水準で両国が一致するか。首脳同士でも、財務省同士でも話し合うことが望ましい」と話した。

 

トランプ氏の米大統領選勝利以降の世界的な株高・金利上昇・ドル高は、「そろそろ頭打ちになる」ため、ダウ工業株30種平均の2万ドルと日経平均株価の2万円は「結局、達成できず、抜くことは当面ないだろう」と榊原氏はみる。

ただ、トランプ政権は「日本にとっては必ずしもマイナスではない。95年ごろと異なり、日米間で経済摩擦などは起こらない。中国に厳しく対処する分、同盟国としての日本の地位は上がってくる」と予想している。

 

榊原氏は「世界的な傾向として、グローバル化の時代は終わった。欧州ではBrexit(英国の欧州連合離脱)だけでなく、他国でも政党単位では『統合から分離へ』と歯車が逆転し始めた」と指摘。

米国も同じで、世界が大きく変わってきた現象の一つがトランプ氏の登場だとし、各国とも「自国第一主義」でBrexitやイタリアの五つ星運動とトランプ氏の米大統領選勝利は「ほぼ平仄(ひょうそく)が合っている。戦後のグローバル化の時代から再び主権国家の時代に回帰してきている大きな転換期だ」との見方を示した。

 

www.bloomberg.co.jp

 

強いドルは国益だが強過ぎては困る

榊原元財務官が指摘しているポイントは、2点ある。1点目はトランプ政権はドル安によって米国製造業と雇用のサポートをすること。2点目は「強いドルは国益」と歴代の財務長官が発信するのは、基軸通貨としてのドルの価値を守る為に「過度に安くなったら困る」からである。

 

ドル高牽制

確かに米国の製造業を守る為にはドル安政策が必要だ。気になる点は、トランプが選挙期間中にあれだけ「為替」について言及していたのに、昨年のトランプラリー期間中のドル高円安に対して沈黙を守っていた事だ。恐らくNYダウとドルがタッグを組んで上昇していた事と、米国内に資金を呼び寄せる為に「ドル高牽制」のトランプ砲を発射しなかったのだと思われる。

しかし、トランプは長い沈黙を破り、先週ウォールストリート・ジャーナルでドル高を牽制した。その後にムニューチンも、トランプ砲(ドル高牽制)が発射される前は「強いドルは重要」と発言をしたが、トランプ砲が発射されたら即座にドル高牽制発言をした。さらにジャネットFRB議長も、利上げに前向きな姿勢の部分だけが市場に織り込まれていたが、ドル高は輸出企業にとってはマイナスだと言及している。

 

では次に、榊原元財務官とは違った見解を持つ、ソニーフィナンシャルホールディングスの尾河氏のロイター記事を考察してみたい。

 

トランプ政策の帰結はやはりドル高か

[東京 24日] - 20日のトランプ米大統領就任演説は、「米国第一主義」や「米国を再び偉大な国にする」など、選挙中の発言の繰り返しとなり、決して内容の濃いものではなかった。ただ、個人的にやや予想外だったのは、「ワシントンは栄えたが、国民はその富を共有しなかった」との見解を示し、政治家全般を含む従来の「ワシントン」を痛烈に批判したことだ。

 

また、「米国第一主義」との関連でトランプ新大統領が語った以下の部分は、投資家も留意しておくべきだろう。

 

「われわれの製品をつくり、企業を奪い取り、雇用を破壊するという他国の略奪行為から国境を守らなければならない」「保護こそが偉大な繁栄と強さにつながる」「私は全力で皆さんのために戦う。そして決して、決して失望はさせない」

 

要するに、昨年11月の大統領選直後に行われた勝利演説よりも、かなり厳しい表現で貿易相手国を批判したのである。本稿では、こうした保護主義の高まりや米新政権の政策がドル円相場に与える影響について考えたい。

ちなみに、週明けのリアクションはドル安だった。23日のニューヨーク市場では112円台半ばまで下落し、24日の東京市場では午後4時現在113円台前半で推移している。

 

<「国境税」はドル高要因>

まず、トランプ大統領はこれまで、減税・インフラ投資・規制緩和など、米国経済のアクセルを踏む方向に政策の軸足を置いているとみられていた。一時118円台後半まで進んだ大統領選後のドル高の背景には、そうした市場の読みがあった。

 

トランプ氏が昨年11月に発表した、「就任直後100日間に着手する優先事項」にもあるとおり、貿易についてはもともと環太平洋連携協定(TPP)など多国籍間の自由貿易には反対だったが、2国間での協議には必ずしも反対ではなかった。

 

したがって、筆者も数々の保護主義的な発言は、あくまで中国やメキシコをターゲットにしたものだとみていた。しかし、今回の演説では「保護こそが偉大な繁栄と強さにつながる」と、全てのケースにおいて米国第一主義を貫く方針であることが垣間見えた。

 

加えて23日には、かねてから述べていたとおり、TPPを離脱するための大統領令に早速署名。さらに同日、米国内の製造拠点を海外に移転後、国内への輸入を望む企業に対し、高額の「国境税」を課す方針を改めて示した。「国境税」とは最近米国で話題となっていた「国境税調整(Border Tax Adjustment)」のことだ。

 

共和党がまとめた案では、米国への輸入品に対して一律20%の税金を課す一方で、米国から輸出して得た利益については課税が免除され、国内から上がった利益にのみ20%の法人税がかかるという制度になっている。厳密に言えば国境税は関税ではないが、実質的には20%の「関税引き上げ」とも言える。

 

ここまでくると、「もしかしたらトランプ政権は、減税やインフラ投資よりも保護貿易を政策として最も重視しているのではないか」との懸念も浮上しやすい。こうした不透明感が足元の円高・ドル安圧力につながっている。

ただ、国境税調整も、「保護主義」の観点から見れば円高要因と捉えられがちだが、この材料で円買い・ドル売りを続けるのは難しい。これらは、仮に実行されればドル高要因となるためだ。

 

国境税調整によって輸入物価が上昇すれば、米国は利上げによるドル高を容認することによって極端なインフレを防ぐ必要が出てくる。実質的な関税引き上げを実行し、財政政策で国内景気を刺激しつつも、一方でドルを安くしたいというのは、政策的につじつまが合わないのだ。

加えて輸入物価の上昇により輸入が減れば、米国の経常収支は改善し、これもドル高要因となる。米ニューヨーク連銀のダドリー総裁も17日、「米国が国境税を課せば、ドルが上昇するほか、輸入する財・サービスの価格の押し上げにつながる」との見方を示した。

 

ちなみに、23日のドル円下落を加速させた要因として、米系メディアが報じた、ムニューチン次期米財務長官候補の発言(「過度に強いドルは短期的にマイナス」)が取り沙汰されているが、同氏は19日に上院で行われた指名承認公聴会の質疑応答では長期的なドル高維持を肯定するような以下の発言を行っていた。

 

「重要なのは長期間にわたるドルの強さだ」「ドルは極めて長期にわたり最も魅力的な通貨であり続けている。それが重要であり、今かつてないほどそうなっていると思う」「ドルは非常に、非常に強い。世界中の人がドルへの投資を望んでいるのが分かる」

 

つまり、国境税なども考慮すれば、米国経済が十分に堅調で、投資マネーが米国に流入している環境下でのドル高基調であれば、取り立てて問題視はしないということだろう。

 

<ドル高トレンド再開までは乱高下か>

とはいえ、投資家にとっては、しばらく身動きを取りにくい状況が続く。「トランプ政権の財政政策が米国のインフレを加速させる」というストーリーで、為替市場ではすでに円ショート・ドルロングポジションが構築されている。もう一段ドルを買うにも、あるいはこれまでの戦略を変更してドルを売り始めるにも、「トランプ政権の具体的な政策」という新たな材料が必要だが、それが明らかになるまでにもうしばらく時間がかかりそうだ。

 

1月末から2月中にも米両院合同会議でトランプ大統領の所信表明演説(例年の「一般教書演説」に該当)が行われるだろう。ここではトランプ政権の主要な政策課題が述べられる。その後、おそらく2月中に予算教書が議会に提出され、大統領の議会に対する予算編成の方針が示されるが、ここで初めてトランプ政権の財政政策が具体的に見えてくる。

 

これらの新たな情報が徐々に明らかになり、米国の景気にとってポジティブと受け取られれば、ドル高トレンドが再開する公算が大きい。それまでは取引量も薄くなりがちで、ドル円相場はトランプ氏のツイッター上でのつぶやきやテクニカル要因などに振り回されるような、振幅の激しい展開になりそうだ。 

 

jp.reuters.com

 

現時点ではドルは底堅く推移している

トランプの大統領就任演説中にドルは下落した。恐らトランプの発言に市場は、条件反射的なリスクオフの反応を示したのだろう。その後NYダウが持ち直し、ドルも112円を割れる程の大きな下落は無く、持ち直した。そして、週明けは再度ドル安から始まった。しかし、ここでも112円のミドルのサポートは強く、現時点でもこのサポートラインを固く守っている状況が続いている。

 

ドル高要因とドル安要因が交錯している

強いドルで米国内に資金を呼び込みたいが、過度なドル高は製造業に打撃を与えてしまう。減税やインフラ投資はドル高要因だが、保護貿易主義や反移民政策、自国第一主義等は不透明感が強く、リスクオフのドル安円高の流れを形成し易い。

しかし、これらのリスクオフの円高が一方的に進行するかと言えば、そうとも言い切れない。尾河氏が指摘するように国境税によって輸入物価が上昇すれば、利上げとドル高の流れに行き着き、輸入物価の上昇で輸入が減れば、経常収支の改善からドル高要因となる。

 

米国に資金が入るのならドル高容認か?

強いアメリカの為に資金を米国に入れる為なら、ドル高は容認であり必要であろう。しかし、過度なドル高は米国の製造業に打撃を与えるので容認は出来ない。では、容認できない水準とは、どのラインなのか?恐らく、どんなに円安が行き過ぎても125円の黒田ラインまでが、米国の許容の限界だろう。

 

鍵を握るのは世界的な不透明感と不安定

トランプの為替政策の真意を見極める為には、所信表明演説や議会への予算教書の提出等のイベント通過を待たなければならない。

投資家として留意すべきは、榊原元財務官が指摘している欧米の政局の不透明感だろう。米国と英国が反グローバルに振れた事で、この流れは更に勢いを増して欧州全体を飲み込む可能性が高い。欧州が飲み込まれたら、次はアジアか?

テロと移民、反グローバルと自国第一主義、そして世界に広がりを見せ始めたポピュリズム。2017年、世界的な政局不安からリスクオフの流れが形成された場合は、円高に振れる可能性の方が優勢だ。

そして忘れてはいけないのは、数あるリスク要因の中でも最もリスクが高いのは、国境税や保護主義、自国第一主義でもない。トランプの存在こそが世界中の投資家にとって恐るべき巨大な不確実性の塊だと言えよう。

いつ、どこで、どんなトランプ砲が発射されるかは分からない。個人投資家は、どんな事が起きても、どんなに市場が乱高下しても、生き残る事が出来るように常日頃からポジション管理と資金管理を怠ってはならない。